インフラを支える様々なシステムには、それぞれ特有の要件や課題がある。多くの分野で見られる「OT」とは、制御技術や産業用機器を監視・制御するための技術および運用体系を指す。その用途は電力供給、上下水道、交通システム、製造業、石油ガスプラントなど広範囲に及ぶ。インフラに直結するこれらの現場では、化学プラントの温度調整や鉄道の信号制御、ダムの水門管理といった用途で、安全かつ安定してシステムを運用することが強く求められる。産業におけるOT環境は、システムの信頼性を維持する必要性と、業務効率化、事故防止、オペレーションコスト低減などの多様な要求に応えて発展してきた。
こうした環境を支える制御システムやセンサー、アクチュエーターは、現場と本部をネットワークで接続し、情報の収集・分析・制御を土台として運用されている。しかし近年、これらOT機器がインターネットや社内の情報系システムと連携する場面が増え、従来は閉じられていた運用ネットワークが外部と結び付くようになった。この変化により、OT環境の運用現場にも重要な課題が浮上した。それが「セキュリティ」の問題である。制御システムの多くは、本来セキュリティリスクを想定せずに運用されてきた歴史がある。
その運用上、システムが停止した場合は重大な事故や損害につながるため、安定稼働と安全第一の思想が最優先された。一方、情報系ネットワークではセキュリティ対策として認証強化、アクセス制御、脆弱性対策などが進んできたが、OT環境ではアップデートやパッチ適用が困難であったり、可用性確保を優先するためリブートや再起動が敬遠されたりといった事情が存在してきた。現状、産業インフラにつながるOTネットワークに対する攻撃事例は少なからず報道されている。特定の国や組織が意図的にインフラをターゲットにサイバー攻撃を仕掛ければ、その被害範囲や影響は想像以上に広がる。停電や水道の供給停止、鉄道網の混乱といったインシデントは、国民生活や産業全体に直接的な打撃を与えてしまう。
だからこそ、OTのセキュリティ強化は社会インフラの維持・発展に欠かせないテーマとなる。セキュリティ向上に向けて求められる取り組みとして、まずOTシステムと情報系システムの分離がある。外部インターネットから守るファイアウォールの配置や、物理的な隔離、データ授受の厳格な管理などが基本となる。また、現場ごとの運用実態に即したリスク評価や、機器ごとの責任領域の明確化も不可欠だ。さらに、産業用機器では既に耐用年数を過ぎた古い設備が活用されていることが多い。
その場合はリプレースが容易ではないため、導入時の設定やアクセス権の棚卸し、記録の見直しが必要となる。技術的な側面では、ネットワーク監視や異常検知、自動遮断の仕組みが注目を集めている。通常の状態と異なるパケットや挙動をリアルタイムで検知できる体制を整えることで、異常なアクセスやマルウェア感染の早期発見に繋がる。また、制御機器ごとのファームウェアやソフトウェアの脆弱性を管理することも大切だ。アップデート手順や適用スケジュールを設け、段階的にセキュリティレベル向上を図っていくことが理想である。
OTの特性上、人為的なミスや運用トラブルも大きなリスクと捉えられる。従って、従業員教育や運用手順の明文化も欠かせない。万が一インシデントが発生した際の対応フローや連絡体制を明確にし、定期的な訓練(シミュレーション)も効果的である。組織が一丸となってセキュリティに意識を持ち、未然防止・早期発見・迅速な対応を徹底することが重要となる。今後もOT分野の技術革新とデジタル化は加速していくと考えられる。
それに比例してリスクや攻撃手法も多様化し、現場ごとに独自の課題が浮上する。そのため、標準化団体や業界ごとのガイドラインに基づきつつも、定期的な評価・改善が求められる。サイバー攻撃は一過性の問題でなく、継続的な脅威であり続ける。その中で最適な安全管理体制を創り上げ、社会インフラ全体の安定稼働につなげることが、これからのOTとインフラ運用にはますます求められる。情報系システムの知見と制御系技術それぞれの強みを活かし、複合的な対策を実践していくことが、真の安全・安心を支える基盤となるだろう。
OT(Operational Technology)は電力や交通、製造など社会インフラの中核を担う制御システムを指し、現場の安全・安定稼働を最優先に運用されてきました。しかし近年、ITシステムとの連携やネットワーク化が進んだことで、サイバー攻撃のリスクが増大しています。これらのシステムは従来、外部から隔離されていたためセキュリティ対策が手薄であり、更新や再起動が困難な現場も多いのが実情です。万一インフラが攻撃を受けると、停電や交通混乱など社会的影響は甚大となるため、OTのセキュリティ強化は喫緊の課題です。対策としては、OTとITシステムの分離やファイアウォールの設置、機器ごとの責任範囲の明確化と古い機器の設定見直し、ネットワーク監視や異常検知の仕組みの導入などが挙げられます。
また、人的ミスの防止や運用ルールの整備、インシデント対応訓練も不可欠です。今後、技術進化とともにリスクも多様化するため、ガイドラインに基づく定期的な評価と改善、ITとOTの知見を結集した包括的な対策が、社会インフラの安定運用にとって不可欠となります。